なぜアップルは選ばれたのか。
人間の習性から考えてみる。
あふれる選択肢に関するジャムの実験
今、Appleは未だかつてない売上を上げている。私はMacが発売された当初からのユーザーだが、昔はひどかった。家電量販店やPC専門店に行っても、Mac関連の棚は隅っこのほんのわずか。対応ソフトも圧倒的に少なく、Macに対応しているものを探すのにも大変苦労した。
ところが今は「Macコーナー」なるものが設けられ、店側もMacを売るスペースを確保することに必死になっている。しかもそこには常に大量の人だかりができていて、「時代も変わったものだ」とうれしいような、ちょっとやきもちを焼くような、複雑な気持ちになる。
しかし、なぜここまでAppleは繁栄することができたのだろうか。ふと思い出した「あらゆる選択肢に関するジャムの実験」がうまく当てはまったので紹介したい。
あふれる選択肢に関するジャムの実験
この実験というのは、こういうものだ。
スーパーの入り口近くにジャムの試食コーナーを設置し、6種類の場合と24種類の場合とで比較した。観察ポイントは、どちらのコーナーの時に人が集まり多く試食するか、そして実際に購入するか。
立ち寄った割合は、6種類:40%に対して、24種類:60%。
しかし購入の割合でみると、6種類:30%に対して、24種類:3%。
人数比でみると、6種類の方が24種類に対して6倍の人数の購入になる。また、ジャム売り場での顧客の会話を採取したところ、次の2種類に分かれた。
「Aのジャムがおいしいね。」「そうね。」ということで30秒で決めて購入する場合と、
「Aのジャムがおいしかったね。」「そうね。でもBのジャムもおいしかったよ。」「試食してないけど、Cはどうかな。」と何分も会話が続き、実際に15分も選んでいた客がいた。
そして、「他を見てから後で戻ってこうよう。」などと言っている。
人は豊富な品ぞろえに惹かれるが、いざ選ぶ段になると選ばない傾向がある。
人は選択肢が多くなると、選択するのをやめてしまうのだ。
選択肢が多いと起きる3つのマイナス
選択肢が多い時、人間には「3つのマイナス」が起こる。
1 現状を維持する傾向がある
選ぶのに時間がかかるため、先延ばしや選ばないことを選択し、結果現状を維持してしまうという傾向がある。2 利益に相反する選択をする
1と共通するが、多岐にわたる選択肢は、自分の利益に相反する選択をする可能性を増やす。3 選択の結果に満足しない
選んだ結果を「もしあのときこちらを選んでいれば・・・」と後悔してしまう可能性が増えるということ。
なぜ3つのマイナスが起こるのか
この3つのマイナスは、人間の知覚判断と記憶力の限界から起こる。いわゆる専門家と言われる人なら、経験と知識により単純化、優先付け、分類することが可能なので迷うことがない。知識があれば選択は楽になるのである。しかし普通の人がよくわからないものを選択するとき、「知識はないが選択に対処しなければいけない」という状況に陥る。知識のない選択は時間の無駄と考えたり、間違えたものを選択肢たりしてしまうのだろう。
また、人間はわずかな違いを見分けられない。2つの選択肢の差が極めて小さい場合、「違いがよくわからないのにどちらかを選択しなければならない」という状況に追い込まれる。このことも選択を放り出したり、間違った選択をする原因となる。
さらに人間は「個性的でありたい」という願望もある。「ユニークでありたい」という思いから、自分が本当に欲しい物と違うものを選択してしまうこともある。
アップル製品はなぜ選ばれるのか
随分前置きが長かったが、Apple製品が選ばれた理由は、これらのことと密接に関係していると感じる。
1 製品の選択肢が少ない
Windowsパソコンは、種類が多彩である。まず作っているメーカーが多い。さらにそのメーカーの中でも、デザインが違うモデルが多くラインナップされ、さらにその中でもグレードの違うCPUやストレージ容量などが存在する。消費者から見ると、Windowsパソコンというのは「膨大な選択肢」なのだ。
また、携帯電話もしかり、である。ガラケーやAndroidを搭載するスマートフォンは無数にある。選択肢が多いのは明らかだ。
一方Appleはどうだろうか。パソコンのラインナップは、ノートパソコンとして、モバイル向けのMacBook Air、スペックの高いMacBook Pro、デスクトップとして処理速度優先のPro、液晶付き一体型のiMac、コンパクトでWindowsパソコンの資源を活かせるMac mini。これだけしかない。
スマートフォンやタブレット端末はさらにその傾向は顕著で、Apple製品を選ぶということは、iPhone、もしくはiPadを選ぶことと同義である。選択肢の少なさの極みだ。
2 選択肢が個性をもち、悩む必要がない
しかもただ選択肢が少ないわけではなく、「違いがわかる」のが特徴だ。それぞれのラインナップには、個性がある。違いがわずかではない。だからこそ、人間は気持ちよく選択できるのだ。さらにそれに加え、間違った選択をすることも減る。
3 後悔しない
個性をもつ製品を選択肢が少ない中選ぶということは、買った後の後悔が少ないということだ。このことはメーカーに対する満足感や信頼感を生む。それが結果、ユーザーの良いクチコミや噂を生むことになる。
ラインナップの拡充こそAppleが衰退する時
このように、Appleは「選択肢の少なさ」でユーザーの心を掴んできた。そんな側面も多分にあるのではないかと感じている。そこで気になるのが、最近のAppleのラインナップの拡充だ。
iPad miniは非常に良い製品である。タブレットは使わないで有名だった私が、毎日欠かさず使っているくらいである。また、MacBook ProにRetinaディスプレイが搭載され、「世界が変わった」と言われている。
ユーザーにとって喜ばしいことばかりなのだが、一般の人から見た時はどう映るのだろう。選択肢の多様化は、「現状維持」や「間違った選択」を増やす結果となるのではないか。
昔Appleは、ラインナップを増やして極限まで衰退した過去がある。それを救ったのがiMacとiBookというシンプルな選択肢を差し出したスティーブ・ジョブズだったわけだ。きっとジョブズも、「選択肢が少ないことの重要さ」がわかっていたに違いない。
再びAppleが過去のあやまちを犯さないで欲しいと思いながら、目の前にある「チョコピーナッツ」、「ブルーベリー」、「メープル」のどのジャムを食パンに塗ろうか悩む日曜の朝である。
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